弘前にて3

前日夜のパーティー会場に飾られていた、弘前でつくられた前川國男建築の模型たち。弘前市立病院、弘前市役所。今回の大会会場となった弘前市民会館、その隣の弘前市立博物館。そして木村産業研究所。私が今回弘前に来た本当の目的は、これら前川さんが手掛けたモダニズム建築のプロポーションを確認することでした。市立病院は予算や凍害との戦いだと聞きましたが、模型で見てもプロポーションの良さを感じます。私が現在静岡で設計している建物もプロポーションが命。少しでも参考になればと勉強のため見学にまわりました。

木村産業研究所/現弘前こぎん研究所。(こぎんは津軽こぎん刺しのことで、江戸時代から続く伝統工芸です。藍色の麻布に白い木綿糸を刺し縫ったクラフトワークのことで、現代的にアレンジし、弘前市内のカフェやショップでも見ることができます)

さてこの建物は、フランスに留学してル・コルビュジェのもとで学んだ前川さんが、パリからの帰途船上で、祖父母と弘前で同郷であった実業家木村隆三氏に依頼され手掛けた建築です。若干27才(羨ましい笑)、延床面積468m2、1932年の竣工です。ドイツの建築家ブルーノ・タウトにも評価され、現在国の登録有形文化財に登録されています。

表通りから見たら、なんだかそっけない建物だなと思うかもしれませんが(モダニズム建築は元々華美な装飾を廃しているので)、内部に入ってみれば空間寸法や高さ関係がヒューマンスケールを強く意識していることが分かります。一言で言えば「人としてしっくり来る高さ」なんですね。

現代では、何々法や何々規制で何センチ以上とか、やりたい空間にとって邪魔な寸法が入ってくるのですが、全体的に人間への近さを感じました。こういうの役人は分からないだろうな~と思いながら進んでいくと、前川さんの設計スケッチも展示されていました。スケッチの段階で、ちゃんとプロポーションがとれています。スタッフへのメッセージもリアルです。

決して大きな建物ではありませんが、内部空間は明るく、目線や方向転換への配慮、一つ一つの設計行為に必ず意図が入っていることを感じました。良かったです。

木村産業を後にし、弘前大学医学部裏の住宅街の丘を登っていくと市役所に出ました。昨日この建物が工事で立ち上がっていく時の白黒写真を見ましたが、いいなと思いました。

この日は金曜日でしたので、当然役所として業務をしているのですが、市の人も見学者の存在に慣れてますね。空間の利用状態を見ても、建築の意図を理解して大事に使っている様子が分かりました。弘前は諸事この感覚でまちづくりに建築が生かされおり、建築にとって幸せだなあと感じました。