週末の土曜日に、建築家の出江寛先生と食事を共にする機会がありました。出江先生は大阪を拠点に活躍された大家で、艶のある独特の感性と美学はまさに名人。御年86歳ですが矍鑠とお元気で、私に建築の極意を話してくださいました。
「空間の間合いは言葉の間合いと共通するものがある」
京都出身の出江先生らしく、程よい距離感、人が何かを察する絶妙な感覚は、言葉の感性が基本にあるとのこと。次にどんな空間が現れるか、予兆というものが感じられることがとても大事なのではないか、また同時に表さないことも大事なのかもしれないと、含蓄のあるお話でした。
「沈黙を設計する」
建築自身が何かをしゃべるわけではない。長く使ってもらうためには時に耐えることが必要で、時とは沈黙である。素材を一つ選ぶにしても常にそれを忘れてはならない。思えば、良い建築空間の中に入った時というのは、必ず静けさを感じるものです。静かになってしまうというのか。やはりこれが建築の原点かもしれません。
「影を設計する」
影、陰影ともいうべきでしょうか。その濃淡をいかに設計していくか。そこに景観をつくる建築の立ち姿が現れるのでしょう。先生はかつて、京都市の役人が「光り輝く京都をつくる」と言った時に、「何たる教養のない馬鹿なだ!」と怒ったそうで、まあ役人の方も深く考えてなかったのでしょうが、その繊細な部分を常に意識し続けるべしという戒め、よく分かりました。
美学。
うん、美学なんでしょうね。やはり。
その厳しさ、私は好きです。