小布施にやって参りました。私が最初に勤めた設計事務所では、地域の修景計画のようなこともやっており、そこで所長が小布施の修景計画のことを話していました。以来ずっと気にかけていながら、今回の旅でやっと来ることができました。もうあれから10年です。
小布施は決して大きな街ではありませんが、北信地方に位置し、栗と北斎で有名です。
建築家の宮本忠長氏が長く修景計画にたずさわり、まちづくりに尽力されました。
「ソトはミンナのモノ。ウチはジブン達のモノ」という考えのもと、自発的に公益性を共有するまちづくりを目指し、建物の間に通り抜けられる小径が巡らされています。
地域住民の理解の賜物ですが、まずは自分達の生活が基本とし、その上で外来者(観光)との交流を図る仕組みになっています。どうぞご自由にお通り抜け下さいと看板も。
門をくぐらせていただくと中は庭になるわけですから広い空間が現れます。ここを通らせて頂く。静かで緊張感がありながら訪れた人を受け入れてくれるこの空気。私もなんとなく身をかがめてしまいます。この在り方を建築家が小布施の人達と共につくりあげたということなのでしょう。
普段私たちはどこの空間で生活をしているのでしょう。自分の土地ではここは俺のものだと威張り、公共空間では俺が使って何が悪いと威張り、あんな建物をつくって目障りだと隣に威張ってばかりいたら、人々の暮らしの精神環境は随分と貧相なものになってしまいます。この小布施方式が必ずしも全てではありませんが、やはりお互いが少しだけ関わりながら、遠慮もしながら、気にかけながら生活環境を作っていくということが、和を大切にする日本人のメンタリティーなのだと思います。そしてこの考えは、決してプライバシーを本質的に阻害するものではないのでしょう。
ここはもう明らかに民有地だろうなあと思いますが、小径の石を見てみると何と手の込んだ張り方をしていることか。視線誘導の重心も納まり、植栽の構成も丁寧です。
建物の屋根の形状としては切り妻などの勾配屋根を基本とし、軒をしっかりと出しています。日本建築ではこの軒をいかに低く仕上げるかで美しさを追求してきました。生け垣の高さすれすれくらいを想像してもいいでしょう。2階建ての建物を建てるときなど、プロポーションを整えるためには二階部分を低くするのがコツで、私も意識して取り組んでいます。
外壁の色については、全体的に栗のイメージにもつながる落ち着いた辛子色を基調としていました。塗り壁もあれば、土壁もありました。
1階部分には下見板を張るなどし、人の目に近いレベルには木、石、土、緑といった自然素材以外の使用は極力控えるというやり方を積み重ねていくと、エリア一帯に調和が生まれてきます。逆に鉄骨造の建物を思い返せないくらいです(もちろん構造としてはありましたが)。
また、歩いていて気づいたのが蔵の多さです。もちろん昔よりは減ったのでしょうが、それでもあちこちで目につきます。住居であれ商店であれ、蔵を改装したであろう建物も各所にあります。蔵は開口部が小さく、プロポーションで大体分かります。立っているというか。
外壁と屋根の間の縁を切って、そこから採光を取り入れる姿も見られました。
途中、蔵の白壁の間を抜けて行くと、煉瓦造りの煙突が見えて来ました。
そう、造り酒屋でした。公道とは関係なく歩いているから裏から回って来ちゃいました。
中に入って商品を見させていただきましたが、どれも美味しそうです。買いたい(笑)。でもまだこの後まちを歩いて見て廻りたい・・・。ワイナリーにもいくしなぁと悩んだ結果、今晩は近くに宿を取ってあるので、有名な地酒ならきっとそこで出しているだろうと考え、ここでは購入せず!
夕食の時に見てみると案の定置いてあり、「吉の川」というお酒を頂いてみました。いや~、美味しかったです。お米の旨味があります。料理とも素晴らしい相性でした。